平成26年度部課長研修 知事講話

ページ番号1049973  更新日 令和4年2月9日

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とき:平成26年8月29日(金曜日)
ところ:岩手県民会館 中ホール
演題:「人口減少問題と岩手の未来」

知事講話  「人口減少問題と岩手の未来」

 平成26年度部課長研修、私からは「人口減少問題と岩手の未来」というテーマで30分話をします。

 この人口減少問題は、日本創成会議のレポートがきっかけでした。今年の春から夏にかけ日本全国を駆けめぐり、日本の地方自治界を大きく揺るがしたと思います。夏の全国知事会議がこの人口減少問題をテーマにし、日本創成会議の代表である増田寛也前岩手県知事、元総務大臣を招き意見交換をする時間をとりました。全国知事会議でそういう特別なコーナーを設けるというのは、私が知事になってからは例がないと記憶していますし、会場には「少子化非常事態宣言」と書かれた“のぼり”が至るところにたくさん立って、非常に“普通ではない”というような中で全国知事会議が開催されて、この問題を取り上げたところです。

 この日本創成会議のレポートがセンセーショナルであったのは、“消滅可能性”自治体リストがついていたことです。これで、「ああ、うちの自治体も消滅するのか」と受けとった方もいたでしょうし、岩手県の沿岸市町村は全部その消滅可能性リストに入っていますし、そういったところが衝撃的だったというところがあります。

 なお、この“消滅可能性”自治体リストを作るに当たっての人口データの取り扱いについては、いろいろな議論があります。2010年の国勢調査の数字を利用し、それまでの数値的傾向がそのまま2020年、2040年と変わらずに続くということが前提となっていて、わかりやすくするために岩手全体で言うと、2010年の人口流出は岩手は4,000人ちょっと流出しているのですけれども、それが2020年、2040年にも続くということが前提になっています。でも2012年と2013年は岩手の人口流出は2,000人くらいの水準になっていますので、4,000人の流出がそのまま続くという前提は、岩手について言うともう大きく違っています。

 また、4,000人なら4,000人ずつ毎年減っていきますと、岩手の人口全体も大きく減っていくわけで、普通、岩手の人口が減るのであれば、それに応じて減る数も減る、つまり同じ割合で減っていくというような計算をするのですけれども、日本創成会議レポートは、岩手の人口の方がどんどん減ってもその年間減少数が変わらないと、いつまでも年間4,000人減り続けるという、よく考えると非現実的な前提をもとに計算されています。そこのところがおかしいというのを一番最初私に教えてくれたのは、鳥取県の平井知事なのですけれども、鳥取県では日本創成会議のデータの処理、そしてそれに基づく消滅可能性自治体という判定はおかしいということで、鳥取県独自の人口予測を作るということにしたそうです。ということで、まず数字の扱いにちょっと問題があるということがあります。

 あとは、そもそも人口が大幅に減少するということをもって自治体消滅という扱いにしていいのかという根本的な問題も指摘されています。それはそうで、釜石市は過去に10万人ぐらいいた人口が半分以下に減っているのですけれども、そういうのは“消滅”とは言わない訳であります。また、古今東西を見ても、岩手県人会が盛んに活躍しているパラグアイという国は、周辺国との戦争で人口が大きく減少したことがありますが、消滅したわけではありません。ヨーロッパでペストが流行し黒死病によって、ヨーロッパ各国の人口が大きく減少し、半分ぐらいに減った国もあったと記憶していますけれども、むしろヨーロッパはその異常な人口減少をバネにして、近代化に向かって構造改革を果たしたというところもあります。

 したがって、日本創成会議のレポートは、まず数字の扱い方に問題があるということと、“著しい人口減少イコール自治体消滅”という扱いをしているところに問題はあるのですが、しかし、大きな意義はあると思っています。それは、「東京一極集中問題」ということを国家的な、国民的な課題であると大きく取り上げたこと。そして、人口減少の要因としては、「若者・女性の生きにくさ」という、そういう課題があるのだということを大きく取り上げたことです。私は、日本創成会議のレポートは、何年後にどうなるというような将来の課題として受けとめるのではなくて、今この瞬間に東京一極集中型の経済社会構造がある。また、そういう構造を維持し、さらには強めるような経済政策、社会政策が採られたりしている。これを今すぐ変えなければならないということ。そして、若者、女性の生きにくさ、例えば、なかなか就職できない、結婚したくてもできない、家庭を持ちたくても持てないというような、今この瞬間の若者、女性の生きにくさ、結婚しにくさというのがある。まず、就職しにくさということがあって、そして結婚しにくさ、子育てのしにくさということにつながっている。そういう若者、女性の生きにくさという問題が今目の前にあり、これを解決しなければならないのだというふうに捉えると、非常にいいレポートなのだと思っています。

 この日本創成会議レポートが全国的に大いに話題になり、国の姿勢も大きく変化しています。この「東京一極集中問題」ということを国の課題としてはっきり取り上げたということは、今までなかったのではないかと記憶します。今までは、地方から都会に人口が流れていくというのは、これはもう当たり前のことであって、また、みんな好きで移動しているのだろうから、そこはいいのだと。それを前提にしながらさまざまな施策を考えていけばいいというような、大きな考え方の枠組みがあったと思います。しかし、都会の方が地方より出生率が低いので、地方から都会に人口が流れることで、日本全体の人口減少が悪化している。従って、地方から都会への人口流出というのは止めていかなければならないという新しい問題意識が出て、日本政府が初めて地方から都会への人口流出を何とかしなければならないと覚悟を決めたと言っていいと思います。

 もう一つ、国の姿勢の変化で注目すべきは、数値目標を設定しようという動きになっているところです。数値目標は、何年後の日本の人口を1億人キープしようとか、あるいは合計特殊出生率を2にしようとか、あるいは現在の出生率と2の中間あたりを希望出生率という目標にしようとか、こういう数値目標を設定しようということは今までタブー感のほうが強かったと思います。しかし、今は議論が成熟してきました。個人個人の結婚するかしないか、個人個人が子供をもうけるかどうか、それは基本的人権、個人の自由であるけれども、そういう個人の生き方の問題とは区別して、自治体であるとか、あるいは日本全体であるとか、そこに望ましい結婚の数や割合、出産の数や割合というものがあるのではないかというふうに、個人の生き方と、自治体や国といった全体の有り様というのを、区別して議論することができるようになってきているという背景があると思っています。

 地方から都会への人口流出というのが、これはみんな好きで地方から都会に出ていっているのだろうという見方が支配的だったということを先ほど述べましたけれども、“岩手の人口流出史”とでもいうような過去のデータを振り返ってみますと、1980年代には岩手からの人口流出は年間1万人近い水準でありました。ところが、1990年代には人口流出数がドーンと減りまして1,000人くらいの水準にまで減っているのですね。そして、1995年には329人しか流出していない。ほとんどゼロと言っていいのではないかと思います。人口流出が止まった年もある。そういう過去のデータを見ますと、好きで出ていっている訳ではない。岩手の中にきちんと働く場、雇用の場があれば岩手に残りたい。また、一旦都会に出たけれども、岩手に戻ってきたい。そういう思いがあるのだということが統計から読み取ることができると思います。その後、西暦2000年代に入って岩手の人口流出数は、90年代のこの1,000人くらいの水準から2,000、3,000、4,000、5,000、6,000、7,000人近くまで年々増えていき、それが最近4,000、2,000と、こういうふうに改善してきているというのが実態であります。

 この岩手の人口流出のパターンを経済、雇用情勢の変化と照らし合わせますと、ぴったり相関関係があるということがわかります。1990年代は、岩手の有効求人倍率が全国の有効求人倍率よりも高かった時代であります。そして、1995年、329人しか流出しなかったこの年は、岩手の有効求人倍率と全国平均の差が一番高かった年であります。従って、岩手に、あるいは地方に雇用がきちんと確保されていれば人口流出は止められる。全国知事会議に出席するに当たって、全国47都道府県の80年代から去年に至る人口流出のパターンと有効求人倍率の全国との差をグラフにしてまとめてみたのですけれども、ほとんどの道府県において岩手と同じようなパターンが認められました。80年代にはたくさん人口が流出、90年代には歯止めがかかり、道府県によっては人口流出がマイナス、つまり人口流入にまでなったところもあります。

 2000年代になって、日本全体はいざなぎ景気を超える景気上昇局面と言われたのですが、実は地方の経済は横ばいかあるいは微減、東京一極集中型の経済成長が続いてしまったため、日本中で人口流出が悪化しました。そして、最近だとリーマンショック後の緊急経済対策で地方の経済が相対的によくなって、日本全体で人口流出が改善するということが起きています。ちなみに、ここ1~2年のところを見ますと、もうリーマンショック対策というのがなくなってきて、一方でアベノミクス―アベノミクスは今のところ株価上昇というのを中心としたマネーゲーム的な経済成長戦略、都会、特に東京優先の東京一極集中促進型の経済政策でありますので、全国的に各道府県の人口流出はここ1~2年悪化しています。ただ、岩手は復興の要素もあって人口流出は先ほど言ったように4,000人水準から2,000人水準へと大きく改善してきているところであります。この復興要素は、復興需要という経済的な実需があることに加えて、アンケートなど調査しますと、高校生たちの地元就職志向が高まっている、また中学校から高校に入るとき、高校で学んで地元で復興のために働きたいという中高校生が増えてきているというような、そういう気持ちの問題もあわせて復興効果が、岩手の場合、出ていると思います。

 国の経済政策だけで地方の人口流出が決まるわけではなく、今のこの復興に関する気持ちの問題のような、そういう精神的な要素もありますし、また雇用対策、地元で働く場を確保していくような、そういう施策を地方の側が努力と工夫をしていかなければなりません。全部が全部国のせいという訳ではないのですけれども、しかし国の経済財政政策によって全国的に地方の人口流出のパターンは大きく左右というか、上下というか、させられております。今、国も本気で人口流出を止めよう、東京一極集中を止めよう、そして日本全体として人口減少を克服していこうと、かなり本格的にやろうとし、この秋にというか、もうこの9月に、地方創生本部(「まち・ひと・しごと創生本部」)という、総理大臣が本部長で担当大臣を設け、そういう特別な対策本部を立ち上げて本格的に国も取り組もうとしています。これが地方側の努力、工夫と一緒になれば、今までできなかったような抜本的な構造改革的な人口減少対策をやっていくことができるチャンスだと思います。80年代、バブルになっていく時代にこれからは地方の時代だ、地方が主役になって、地方が豊かになることで日本全体が発展していくという、そういう夢が描かれたのですけれども、今度も、構造的に人口減少対策をきちんとやって、そういう内需拡大型の経済社会構造にして、地方が主役になる国の発展ということを実現していくチャンスだと思っています。

 地方の努力ということについて言いますと、西日本の市町村に先進例がたくさんあると言われています。特に中国山地の山奥の市町村は、かなり過疎が悪化し、ひどくなって必要に迫られ、やむにやまれずに抜本的な定住政策を展開している、その必死さが効果を出しているというところがあると思います。中国山地のこの山奥の方の市町村の定住政策では、農業への新規就農のいろいろな教育訓練を提供しているそうで、岩手でも新規就農のための教育訓練、またいろいろな補助というのはあるのですが、西日本の方の特徴は、農業だけで食べていけるような環境にはない、土地も狭いし、また産地としても大きくないし、だから農業はあくまで生計のごく一部を担うものとし、農業のほかに都会の方から持ってきてもらったIT関係の仕事とか、さらに地元でNPOとか、あるいは市町村の仕事の委託みたいな地元密着型ソーシャルビジネスというような、2つか3つあるいは3つか4つの兼業によって食べていけるような仕組みを工夫していて、そういうところは岩手より西日本が発達していると思います。岩手の場合は、新規就農で農業だけで専業でやっていけるチャンスが結構あるために、西日本のようなそういうきめ細かい定住政策がまだあまり発達していないという事情があると思います。ただ岩手の中でも市町村ごとに見ていきますと、中国山地の山奥型のきめ細かい定住政策が向いているのではないかと思われる市町村が結構あると思いますので、そういったところは参考にしていけばいいと思います。

 そういう中国山地の悲惨な状況の中から「里山資本主義」という、未来を切り開く新しい希望が提唱されているのです。地域資源を活用し、地域の農林水産物を活用してそこに付加価値をつけて、6次産業化などで付加価値を高めて、そして収入、所得を増やしていく。そういう「里山資本主義」というのは、岩手では去年から“アマノミクス”と呼んでいる、例えばウニをとってウニ弁当にしてローカル鉄道の中で海女の格好をして売るというような、6次産業化の方向性と同じだと思います。そういう地域資源を活用し、付加価値を高めて収入、所得を高めていくということがこの定住政策の基本になっていくのだと思います。

 また、「若者女性活躍支援」ということに岩手県は力を入れ始めているわけですけれども、新しい定住者は若者であったり、また女性であったりすることが多い訳でありまして、そういう人たちが活躍できるような場を自治体側が用意しておくということが、この定住政策の観点からも重要であります。

 そうやって地方の経済社会をあるべき姿に構造改革していくことが必要だと思います。構造改革と言いますと、グローバル経済に対応して、例えばコストをどんどんカットしてとにかく安く大量に作れるようにする、農業であれ、工業であれ、またサービス業であれコストカット―コストカットというのは、賃金は安く抑えておくということになる訳ですけれども―そういうグローバル経済対応型の構造改革というのがよく言われるのですが、実は日本の経済の中でグローバル市場を相手にしてやっている輸出型の経済というのは3割ぐらいしかありません。7割はローカルな市場を相手にするローカル経済です。この7割のローカル経済が成長発展していかないと日本経済が全体として成長発展していかない訳でありまして、失われた20年と言っているこの長期デフレ、長期不況、長期経済低迷はグローバル経済、G経済の方にばかりかまけてローカル経済、L経済の方をないがしろにしてきたせいだと思います。今こそ“人口減少対策イコール地方経済再生”でありますので、L経済、ローカル経済というのをきちんと作っていくということが必要であり、またそれがうまくできれば、さっき言ったような内需拡大、構造改革で“地方が主役”の豊かな日本が実現するということになる訳です。

 冨山和彦さんという、県北バスと浄土ヶ浜パークホテルの再建をして、今その運営をしている「みちのりホールディングス」という会社の、また、その親会社の社長さんがおられます。産業再生機構の立ち上げにも関わり、オールジャパンでこの企業再生、産業再生を先頭に立ってやってきた人でありまして、この方が最近PHP新書から出した「なぜローカル経済から日本は甦るのか」という本が参考になります。G経済とL経済の2つがあるのだということ。今まで私たちも何となくそうだと思いながらやってきたわけですよね。グローバル経済と言うけれども、そのグローバル経済の論理だけで岩手県の地方経済というのを全面的にできないし、またしないほうがいいのではないかというようなことは漠然と思っていたのですけれども、そこを極めて明確に、論理的に解き明かしてくれた冨山和彦さんであります。

 冨山和彦さんが最近強調しているのは、地方経済、ローカル経済、L経済では給与を高くするような、そういう競争をしていかなければダメだということなのですね。地場の商店やサービス業は、県北バスがそうだと言うのですけれども、独占的になっているわけです。価格競争が働かない。価格競争的な市場メカニズムになっていないというのですね。商店などでも駅前のいいところにお店があれば、価格競争で淘汰されるのではなく、多少高くても売れてしまうし、サービスが悪くても売れてしまうようなところがあります。そういう中で健全な競争というのはどうあるべきかというと、働く人の給料を高くできるくらいの生産性を上げられるところが生き残っていけばいい。そして、それができないところは廃業するなり、うまくいっているところと合わさるなりして、ただそこもバタンと破産して、夜逃げしなければならなくなるような、二度と復活できなくなるような形の廃業とかではなくて、うまくソフトランディングして、地域の中で働く人に高い生産性でいい仕事をしてもらえるような企業・事業者にどんどん集約されていくような構造改革をやっていくのがいいと言っています。特に、人手不足経済というのを前提にすると、もうそれしかないというような話だと思います。復興の現場のみならず日本中、人手不足経済、大手牛丼チェーンとかも人手不足経済に悩んでいるわけでありまして、そこで安い給料でブラック企業的に働かせているとかえってうまくいかない。一人一人の生産性を高めて高い給料を出せる、そこに人が集まっていい仕事をしていくというような、人手不足経済を前提としたローカルな経済構造改革というのが、今、必要だということであります。

 冨山和彦さんは、今週行われた国の地方創生本部(「まち・ひと・しごと創生本部」)を立ち上げるための有識者の意見聴取にも呼ばれていまして、冨山路線がきちんと政府の路線にもなってくれると非常にいいのではないかと思っています。今度、県北バスの会社の用務で岩手に来られる機会があると聞いていますので、その時にお会いして、今、話したようなことを語り合いたいとも思っています。

 日本創成会議のレポートで広まった人口減少問題というテーマは、地方を今度こそ根本的に良い方向に構造改革していくことにつながる一大チャンスをもたらしていると思っており、ここは県職員としては頑張りどころだと思います。市町村職員も頑張りどころ、もう命運がかかった展開になってきている訳でありますけれども、市町村と県と力を合わせ、そして国の力も大いに引き出して、今度こそ地方を、地方のあるべき姿に構造改革していくということで、この「人口減少問題と岩手の未来」の話を終わります。

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